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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)11695号 判決 1999年2月17日

イ事件原告兼ロ事件被告

財団法人上原学術研究所(以下「原告財団」という。)

右代表者理事

中野明子

イ事件原告

中野正明(以下「原告中野」という。)

右両名訴訟代理人弁護士

森下弘

イ事件原告

武川襄(以下「原告武川」という。)

イ事件被告兼ロ事件原告

梅澤晴美(以下「被告梅澤」という。)

ロ事件原告

重和子(以下「原告重」という。)

イ事件被告

稲垣浩(以下「被告稲垣」という。)

イ事件被告

北大阪合同労働組合(以下「被告組合」という。)

右代表者執行委員長

稲垣浩

右四名訴訟代理人弁護士

後藤貞人

江村智禎

イ事件被告ら三名訴訟復代理人弁護士

遠藤比呂通

主文

一  被告梅澤、同稲垣及び同組合は、連帯して、原告財団、同中野及び同武川に対し、各一〇万円及び右各金員に対し、被告梅澤は平成八年一二月一日から、被告稲垣は同月二日から、被告組合は同月三日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告財団は、被告梅澤に対し、金二二万二〇八八円及びこれに対する平成一〇年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告財団は、原告重に対し、金一一万円及びこれに対する平成一〇年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告中野、同武川、原告財団、被告梅澤及び原告重のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告中野、同武川及び原告財団の負担とし、その余を被告梅澤、被告稲垣、被告組合、及び原告重の負担とする。

六  この判決は、第一ないし第三項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  イ事件

1  (原告財団、原告中野及び原告武川)

被告梅澤、同稲垣及び同組合は、連帯して、原告財団、同中野及び同武川に対し、各二〇〇万円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日(被告梅澤については平成八年一二月一日、被告稲垣については同月二日、被告組合については同月三日であることが、記録上明らかである。)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  (原告武川)

被告らは、原告財団の事業本部一階の職員掲示板以外に、ビラを貼付、配布してはならず、かつ、原告武川を誹謗中傷する内容を記載したビラを一切貼付、配布してはならない。

二  ロ事件

1  原告財団は、被告梅澤に対し、金二三一万二〇八八円及びこれに対する訴状送達の日(記録上、平成一〇年六月一八日であることが明らかである。)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告財団は、原告重に対し、金二二〇万円及びこれに対する訴状送達の日(右同)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

イ事件は、原告財団、同中野及び同武川が、被告梅澤、被告稲垣らの違法なビラ貼付等によって名誉、信用を毀損される等の損害を受けたとして同被告ら及び被告組合に対して損害賠償を求め、加えて、原告武川がビラ配付(ママ)等の差止を求めた事案であり、ロ事件は、原告財団の従業員であるとともに被告組合の組合員である被告梅澤及び原告重が、原告財団から懲戒処分を受けたが、右処分は被告梅澤らの組合活動の弱体化を企図してなされた違法なもので不法行為に該当するとして、これによって受けた精神的苦痛や減給された賃金の損害賠償等を求めた事案である。

(なお、以下で引用する証拠はいずれもイ事件において提出された証拠である。)

一  当事者間に争いのない事実等

1  当事者

(一) 原告財団は、「産業の振興、生産の改良促進に関する図書及び資料を収集して、これが学術研究を行い、もって国民生活の向上に寄与すること」を目的(その後変更)として、昭和二二年七月八日に設立された文部省所管の財団法人であり、現実には、企業、地方自治体、学校等で健康診断を行うことを主たる業務としている。主たる事務所は肩書住所地にあるが、大阪市福島区<以下略>ランドマーク福島一階及び二階を事業本部事務所として日常業務を行っており、従業員は嘱託職員二名を含めて一八名(平成一〇年七月当時)であり、全員が事業本部事務所で就労している。

原告中野は、原告財団の理事長であった(「理事長」は定款において、原告財団を代表するものと定められた職である。<人証略>)。

原告武川は、京都弁護士会所属の弁護士であり、原告中野が平成八年五月九日に事業本部事務所に出勤しなくなって後、原告財団の理事長代理の職にあった。

(二) 被告梅澤は、原告財団に成績管理課員として勤務する従業員であり、北大阪合同労働組合上原学術研究所分会(原告上原(ママ)の従業員七名で結成されており、資格申請は行っていない。以下「分会」という。)の分会長である。

原告重は、原告財団に成績管理課係長として勤務する従業員であり、分会の会計を担当している。

被告組合は、分会の上部団体にあたる労働組合であり、被告稲垣は被告組合の執行委員長である。

2  原告財団では、従業員に対し、かねてから経営内容が赤字であるとの説明がなされてきた。

平成五年二月ころ、分会は、原告財団に対し、従業員に対する賃金の支給基準が不明瞭であるとの理由で、新たな賃金体系表の作成を要求し、原告財団では、同年四月新賃金体系表を作成して、賃金支給日との関係から同年三月二一日に遡って適用することとなった。

しかるに、その後新たに原告財団に雇用された従業員に新賃金体系表の適用を受けない者がいたことや、平成七年六月に原告中野が、被告梅澤に原告財団の経営は赤字ではないと述べたことから、分会は、原告財団に対し、経理内容の公開、新賃金基準の説明、賃金増額の要求をするようになった。

原告財団は平成六年度及び七年度の決算報告書を分会に交付するなどしたが、分会は原告財団の説明や賃上げ回答を不満とし、これらを巡って労使は対立するようになった。

そのような中で、原告中野は平成八年五月九日から、病気療養ということで事業本部事務所には出勤しなくなり、同年六月一二日には事務局長として松元良司が、翌一三日には、杉田利一が新たに雇用され、同月二七日の団交以後、右両名のほか、原告武川が理事長代理の肩書で、団交等の交渉に当たるようになった。

これに対し、分会は、松元が作成したメモ(「組合―(警察動かない)」「労務担当―つぶし」「情報―警察、近公、議員」「社内(人事調査、T)」などの記載がある。以下「松元メモ」という)(ママ)を入手したことなどから、右三名が組合つぶしのために雇用された者であるとして、原告財団に対し、右三名の排除を強く要求するようになった。

3  懲戒処分(以下、左記各懲戒処分を「本件処分」という。)

(一) 原告財団は、平成八年一〇月一日、被告梅澤に対し、ビラ配布(後述のイ事件原告らの主張1(一)(1)及び(3))を理由とする訓戒処分及び原告中野宅への押し掛け等(同1(三))を理由とする平均賃金の六分の一の減給処分をなし、同月三日、原告中野宅への電報の打電(同1(二))を理由とする訓戒処分をなした。被告梅澤は、これらの処分書の受領を拒否したところ、原告財団は、さらに、被告梅澤に対し、同日、これら処分書受領拒否を業務命令違反として、同月四日から一四日まで七日間の出勤停止処分にした。しかるに、被告梅澤は、その処分書の受領をも拒否し、同月四日は出勤停止命令に従わなかった。そこで、原告財団は、被告梅澤に対し、同日、右出勤停止命令違反を理由に平均賃金の六分の一の減給処分を行ったが、同人はその処分書の受領も拒否した。これらの減給処分により、被告梅澤は、平成八年一〇月分の賃金から、一〇万二〇八八円を控除された。

(二) 原告財団は、原告重に対しても、同月一日、原告中野宅への押し掛け等(同1(三))を理由とする訓戒処分をしたが、同人もまたその処分書の受領を拒否した。

4  被告組合、分会、被告梅澤らは、同月一五日、本件処分は分会の活動を弱体化させるための不利益取扱であるとして、大阪府地方労働委員会に対し、不当労働行為救済申立(平成八年(不)第四四号)、さらに、被告組合及び分会は、同月二二日、原告財団が団交を拒否したとして、同委員会に対し、不当労働行為救済申立(同第四五号)を行った。

二  本件の争点

(イ事件)

1 被告梅澤らが、共謀して、原告中野らの名誉信用を毀損するビラ貼付等の不法行為を行ったか否か。

2 原告武川が求める差止の必要性があるか。

(ロ事件)

本件処分が違法な懲戒処分であるとして、被告梅澤及び原告重に対する不法行為になるか。

第三争点についての当事者の主張

(イ事件)

一  原告財団、同中野及び同武川(以下、この三名を「原告ら」という。)の主張

1 原告財団は、分会の法外な賃上げ要求等に対して、相当額の賃上げ要求には応じると回答するなどし、団交等にも誠実に対応してきた。しかるに、被告梅澤、同稲垣及び被告組合は、原告財団の回答及び原告財団が組織改編により管理職の増員を行ったことを不満として、共謀の上、次々に以下のような不法行為を繰返した(ただし、以下の事実のうち、原告武川は、(一)の(2)及び(4)の一六日のビラ配布並びに(四)の(3)及び(4)のビラ貼付は、主張しておらず、また、(一)の(1)及び(3)のビラ配布並びに(二)の打電は被告梅澤及び分会との共謀によるとの限度で主張しているに止まる)。

(一) ビラ配布

(1) 事業本部事務所において、平成八年九月一一日正午ころ、「こういうやり方はペテン師やゴロツキといっしょ」「研究所を私物化しようとする者」などと、原告らを誹謗中傷する内容を記載したビラ(<証拠略>)を、従業員に配布した。行為者は被告梅澤である。

(2) 同月一七日午後五時一五分ころにも、右事業本部前でビラ(<証拠略>)を配布した。

(3) さらに同月一九日午前一一時二〇分頃、「形だけの反省なら猿でもします」などと、原告らを誹謗中傷する内容を記載したビラ(<証拠略>)を従業員に配布した。行為者は被告梅澤である。

(4) 同年一〇月三日、健診先である大阪市中央区<以下略>松坂屋周辺において、また、同月五日及び一六日、大阪トラック協会主催の健康診断実施会場である大阪市浪速区<以下略>浪速区民センター周辺において、後記(三)のビラと同内容が記載されたビラ(<証拠略>)を配布した。行為者は特定できない。

(5) 右各配布は、原告らの名誉、信用を毀損するものである。

(二) 原告中野宅への電報の打電

原告中野がその肩書住所の自宅において安静療養中であることを知りながら、嫌がらせの目的で、共謀の上、同年九月二〇日、二一日、二三日、二六日、二七日及び同年一〇月一日に、「理事長は責任逃れをせず、団体交渉に出てきて、組合との約束を履行せよ」等との電報を、原告中野の自宅に打電した。行為者は被告梅澤である。

(三) 原告中野宅への押し掛け

同年九月二八日午前九時ころ、原告中野宅前に押し掛け、原告中野に面会を強要し、無届出で街頭宣伝活動を行い、かつ、「労務屋やゴロツキ的弁護士を雇い」「本人は病気を理由に雲がくれしている」「労務ゴロ(武川弁護士、松元、杉田)は財団から出ていって貰い」「利権や(ママ)集団武川弁護士、松元、杉田は財団から出ていけ!」などと記載したビラ約二〇〇枚を付近住民宅に配布し、スピーカーで同様のことを宣伝流布した。行為者は、被告梅澤、原告重、被告稲垣その他被告組合員である。

(四) ビラ貼付(いずれも行為者は特定できない。)

(1) 同年一〇月六日夜から七日早朝までの間において、事業本部事務所が入居しているビル一階の表玄関及び健診先である高槻市<以下略>所在の高槻市磐手公民館のガレージに、「右翼に頼んで組合つぶし!」「悪徳顧問弁護士武川襄!ガラの悪さは京都で評判」「働く人の血をすっていくらもうけた」などと記載した「上原学術研究所の中野理事長」宛てのビラ(<証拠略>)を貼付した。

(2) 同月八日夜から九日早朝までの間において、原告中野が入院していた京都市山科区<以下略>の医療法人社団洛和会音羽病院(以下「音羽病院」という。)の建物の窓や救急車に右と同様の記載をしたビラ(<証拠略>)を貼付した。

(3) 同年一〇月上旬ころ、株式会社日本医学臨床検査研究所(以下「日研」という。)前の道路や同社所有の営業車に右と同様の記載をしたビラ(<証拠略>)を貼付した。

(4) 同年一一月上旬京都弁護士会館近くの電柱に右と同様の記載をしたビラ(<証拠略>)を貼付した。

(5) 右各貼付は、原告らの名誉、信用を毀損するものである。

2 原告らが、それぞれ、被告梅澤、同稲垣、同組合の右違法行為によって被った無形損害を金銭で評価すると、いずれも各二〇〇万円を下らない。よって、その賠償を求める。

3 原告武川(差止請求)

原告財団は、被告梅澤及び原告重に対し、本件処分を行ったが、右被告らは、その処分書の受取りを拒否し、その後も不法行為を続けた。

このような態度からして、被告梅澤、同稲垣、同組合らが今後もビラの貼付、健診先への配布を続けることは明らかである。よって、その差止を求める。

二  被告梅澤、同組合及び同稲垣の主張

1 原告らが主張する不法行為のうち

(一) ビラ配布について、被告梅澤が、平成八年九月一一日及び一九日に原告ら主張のビラを配布したことは認めるが、右のビラ配布は分会代表者として行ったものであり、また、ビラの内容が原告らを誹謗中傷するものであったことは否認する。

被告組合が、同年一〇月三日、松坂屋周辺において、また、同月五日、浪速区民センター周辺において、原告主張のビラを配布したことは認めるが、その余の被告の関与及びビラの内容が原告らの名誉ないし信用を毀損するものであったことは否認する。

(二) 原告中野宅への電報の打電は、被告組合が行ったものであって、被告梅澤及び分会は関与していない。

(三) 原告中野宅への押し掛けについて、被告らが、前同日、原告中野宅へ赴き、原告中野との面会を求め、原告ら主張のビラ約二〇〇枚を付近住民宅などに配布し、スピーカーを用いていたことは認めるが、面会を強要したこと、街頭宣伝活動を行ったことは否認する。

(四) ビラ貼付については全て否認する。

2 被告梅澤らが行った右ビラの配布や原告中野宅への電報の打電及び同人宅訪問等は、いずれも正当な組合活動の一環であって、不法行為としての違法性が阻却されるものである。

すなわち、原告財団では従業員の賃金体系が不明瞭であったことから、分会の要求で平成五年四月に新賃金体系表が導入され、全従業員にこれが適用されることとなっていたにもかかわらず、その後、右賃金体系表によらない賃金の支給を受ける者の存在が発覚した。また、従業員は、経営が赤字であるとの原告財団の説明を信じて、永年にわたり低い昇給額に甘んじてきたところ、平成七年六月になって原告中野が、実は赤字ではないと発言した。このようなことから、分会は、原告財団に対し、経理内容の公開と賃金支給基準の説明を求めるとともに、賃金の増額を要求するようになった。

しかるに、原告財団は、誠意ある対応をしないばかりか、原告中野は病気を理由に出勤しなくなり、代わって、原告武川や松元、杉田が原告財団の運営に介入するようになった。松元メモの存在などからして原告武川らの介入は、組合潰しを目的とするものであることは明らかであり、このため、被告梅澤ら及び分会は、原告武川らが原告財団から出て行くことを強く要求するようになった。

被告ら及び分会は、以上のような事情からビラ配布を行ったものであり、また、原告中野の病気療養は疑問視される状況にあり、電報で事前に団交の席に復帰するよう要求したがなんらの回答もなく、このため面会を求めて自宅にまで訪問することになったものであって、これらはいずれも正当な組合活動の一環と目されるべきものであり、右ビラ配布等の違法性を阻却するものである。

3 法人である原告財団には、人格権は観念できず、したがって、その侵害による無形損害を生じたというのは、主張自体失当である。

(ロ事件)

一  被告梅澤及び原告重の主張

1 被告梅澤らは、右(イ事件)被告梅澤らの主張2のとおり、正当な組合活動の一環として、ビラ配布等を行っていたものである。

しかるに、原告財団は、組合及び分会の弱体化を図るため、分会の中心メンバーである被告梅澤及び原告重に対し、何らの事情聴取を行うことなく、本件処分を行ったものであり、本件処分は、被告梅澤及び原告重に対する不法行為に該当する。

2 被告梅澤は、右違法な処分によって、平成八年一〇月分の給与から違法に一〇万二〇八八円を控除されたほか、被告梅澤及び原告重は、それぞれ本件処分によって、金銭的に評価して二〇〇万円を下らない精神的苦痛を受け、また、本件訴訟代理人に対し、弁護士費用として、原告梅澤が二一万円、原告重が二〇万円の支払をそれぞれ約した。

よって、これらの損害賠償を求める。

二  原告財団の主張

本件処分は、いずれも就業規則に基づき適法に行われたものである。

本件処分に先立って、被告梅澤らから事情聴取は行っていないが、同人らが事情聴取に応じることを期待できる状況にはなかった。

第三(ママ)当裁判所の判断

(イ事件)

一  前記争いのない事実等に加え、証拠(<証拠・人証略>)によれば、以下の事実を認めることができ、これを左右するに足る証拠はない。

1 原告財団では、昭和六三年ころ、経営難から当時既に理事長であった原告中野ら理事が退任して経営から退くという事態が生じたが、原告中野は再建に協力するという被告梅澤や被告稲垣らの要請を受けて理事長に復帰し、その後は原告財団内部に役員及び従業員らで構成する再建委員会を設置するなどしてして(ママ)、その運営に当たってきた。原告中野からは、従業員に対し、折にふれ、原告財団の経営が赤字であるとの説明がなされて、従業員の昇給も一部の例外を除き、ほぼ一律に年五〇〇〇円の定期昇給のみとされてきた。

平成五年二月ころ、分会は、従業員の中に年収契約者がいることなど賃金の支給基準が不明瞭であるとの理由で、新たな賃金体系表の作成を要求し、原告財団では、同年四月新賃金体系表を作成して、賃金締切日との関係から同年三月二一日に遡って適用することとなった。

平成七年六月ころ、同年度夏期賞与の交渉等の際、原告中野が、被告梅澤らに原告財団の経営は赤字ではないと話したことが契機となり、また、右新賃金体系表施行後採用した従業員に同表によらない年収契約等で賃金支給を受ける者がいたこともあって、そのころから分会は、原告財団に対し、団交等を通じて、経理内容の公開、新賃金基準の説明、賃金増額を要求するようになり、従業員らにビラを配るなど活動を行うようになった。また、同年一一月には係長以上会議で四名の従業員増員が計画されたが、このことも分会の反発を増大させることとなった。

平成八年二月五日、分会は、分会員の基本給につき一律一〇万円の増額等九項目の要求事項をとりまとめ、要求書として原告財団宛てに提出し、以後、原告財団と分会との間で右要求事項を巡って団交が重ねられることとなり、そのうちのいくつかは妥結に至ったものの、とりわけ、基本給増額の要求については、原告財団の回答との開きが大きく、団交は進展しなかった。

2 このような中、原告中野は、平成八年五月九日から体調を崩したとの理由で事業本部事務所に出勤しなくなり、同月二八日、十二指腸潰瘍等の病名で音羽病院に入院した。

原告中野は、原告財団理事端勝美の紹介で、原告財団の運営を原告武川に依頼し、そのころから原告武川が、非常勤の理事長代理として財団運営に係わるようになり、同年六月一二日、原告武川によって松元が新設の事務局長として迎えられ、さらに翌一三日には杉田が事務局兼務総務部次長として雇用された(原告武川及び松元は、同年七月一三日付で原告財団の理事にも就任している)。そして、以後の分会との団交その他の交渉は、主として右三名が行うようになった。なお、原告財団からは、原告武川に対し、同年六月、二回に分けて合計五〇〇万円が支払われたほか、月々の顧問料一〇万余円及び報酬六〇万余円が支給され、松元及び杉田に対しても報酬ないし給与名目での月額各六〇万円に加えガソリン代等種々の名目での金員が支給された。

分会は、原告財団に対し、原告武川らの採用理由と予算措置の説明を求めるなどしていたところ、被告梅澤が同年七月末ころ、松元メモを拾得した。右メモの記載内容からして、原告財団が松元らを雇って組合潰しを画策しているのではないかとの疑いが持たれたことから、分会ないし被告組合は、メモの記載内容について原告財団を追及し、団交の席で、松元が組合に関する情報収集や警察との情報交換をしていたこと等を認め、原告財団は、同年八月一二日及び二八日、分会に宛てて、松元に対する厳重注意と今後の情報収集活動等を行わないこと等を約した文書を出した(<証拠略>には、前記大阪府地方労働委員会の審問において、松元が、松元メモの趣旨は、組合対策を記載したものではなく、「労務担当―つぶし」の記載の意味も労務担当は身体を潰すことになるという趣旨であるなどと供述した旨の記載があるが、右供述記載は到底信用できない)。

3 これ以後、分会ないし組合は、従前の賃金増額等に加え、原告武川ら三名が原告財団から出て行くことをも要求するようになった。

平成八年九月一一日、被告梅澤は、分会の要求等を訴えかけるビラ(<証拠略>)を作成して、事業本部事務所内で従業員らに配布したが、同ビラには原告武川の団交対応を「こういうやりかたはペテン師やゴロツキのやり方といっしょです」と評し、原告武川らを「研究所を私物化しようとする者」と評した記載があった。

同月一七日には、被告組合員が「得意先の皆様へ」と題したビラ(<証拠略>)を、事業本部事務所前で通行人に配布したが、右ビラは被告梅澤が同年五月八日付で作成していたもので、組合員と非組合員との賃金格差の不当を訴える旨の記載がなされていた。

さらに、同月一九日、被告梅澤は、原告財団の管理職が同月一七日の右ビラ配布時の様子を写真撮影していたことを非難するビラ(<証拠略>)を作成して、事業本部事務所内で従業員らに配布したが、右ビラには、松元メモに関して原告財団が情報収集活動を行わないことを約したことと関連させて「形だけの反省なら猿でもします」との記載があった。

この間、原告中野は、同年七月二日に音羽病院を既に退院していたが事業本部事務所に出勤することはなく、被告梅澤が、同年九月二〇日ころ、音羽病院に電話で問い合わせたことから、原告中野の退院が分会や被告組合に判明した。

そして、右同日、中野宅に、発信人を分会(発信者の個人名はない。)として、「理事長は団体交渉に出てきて組合との約束を履行せよ」との電報が打電され、次いで、同月二一日、二三日、二六日、二七日に同発信人名義で、「理事長は責任逃れをせず、団体交渉に出てきて組合との約束を履行せよ」との電報が打電された。

しかるに、原告中野がこれを放置していたことから、被告組合では、直接の面談を求めることとし、同月二八日午前九時ころ、被告梅澤や原告重ら分会員六名並びに被告稲垣及び被告組合員一名は、街宣車で原告中野宅に赴いた。同日原告中野は在宅していたが、被告稲垣の呼出しに応対しないでいたところ、被告稲垣らは、スピーカーで約四、五〇分にわたって、原告中野宅前で、同原告に出てくるよう要求する呼びかけをしたり、労務ゴロを雇って組合潰しを画策していると同原告を非難する演説をし、また、用意してきていた白衣を着用して、付近住民宅や通行人に約二〇〇枚のビラ(<証拠略>)を配布した。右ビラには低賃金に甘んじさせられてきたという組合の主張とともに「中野理事長は今年五月から病気を理由に雲がくれしています」「自分の代わりに組合対策のために労務屋を雇ってきた」「利権屋集団武川弁護士、松元、杉田は財団から出ていけ!」などの記載があった。

原告中野は、同月三〇日から、意識消失発作の病名で音羽病院に再入院した(同年一〇月七日に退院)。

なお、同年一〇月一日にも、右と同じ発信人名義で「組合を嫌悪しても組合はつぶれませんよ。混乱の全ての責任は、理事長あなたにあるのです。くれぐれもお忘れのないように」との電報が、原告中野宅に打電された。

このような事態に対し、原告財団では、被告梅澤及び原告重に対し、本件処分を行った。

被告梅澤は、分会長として、本件処分に抗議するとともに、被告組合でも、同年一〇月三日、原告財団が松坂屋において健診業務を行った際、被告組合員によって、その周辺において「松坂屋ではたらく皆さんへ」と題するビラ(<証拠略>)を配布し、また、同月五日及び一六日、原告財団が浪速区民センターにおいてトラック協会主催の健診業務を行った際にも、その周辺で、被告稲垣ら被告組合員が、「トラック運転手のみなさん!」と題するビラ(<証拠略>)を配布するなどの行動に出た。右各ビラは、標題以外、被告梅澤がその原本を作成したものであり、組合員と非組合員との賃金格差の不当を訴える趣旨のものであるが、文中には、原告中野は「労務屋やゴロツキ的弁護士を雇い」「本人は病気を理由に雲がくれしている」とか「労務ゴロ(武川弁護士、松元、杉田)」「利権屋集団武川弁護士、松元、杉田は財団から出ていけ!」などの記載があった。

4 右のような被告梅澤らの活動と相前後して、貼付者は不明であるが、同月七日ころ、事業本部事務所が賃借して入居している建物や、同日原告財団が検針(ママ)業務を行うことを予定していた高槻市磐手公民館のガレージに、また、同月九日ころ、原告中野が入院している音羽病院の救急車や建物の窓などに、さらに、同年一〇月上旬ころ、原告財団の取引先である日研の営業車やその付近道路に、そして、同年一一月上旬ころ、京都弁護士会館付近の電柱に、それぞれビラがのり貼りで貼付されるという事態も発生した。これらのビラには、「右翼に頼んで組合つぶし!」「悪徳顧問弁護士武川襄!ガラの悪さは京都で評判」「働く人の血を吸っていくらもうけた」「団交をのばしてみても無駄なこと。逃げまわらずに出ておいで」などの記載があった。右ビラには、いずれも作成者の記載はない。

5 原告財団では、同年一〇月ころ、事業本部定例本会議充実等のためとして、事務局長付等の肩書きで従業員四名を雇用したが、これらの者は、いずれも、松元が代表取締役を務める会社の従業員であった。

その後、原告中野は、同年一二月二六日付で、原告財団理事端との間で、後任理事長に上田藤兵衛を就任させるとの覚え書を交わして、端に原告財団の経営を委任する旨の委任状を出した。上田は、平成九年一月六日、原告財団理事に就任し、他方、平成九年三月、原告武川、松元は原告財団理事を解任されて原告財団の運営から離れ、杉田も同時に解雇された。

さらに、端、上田も平成九年九月一二日、原告財団理事を解任されている。

なお、被告梅澤らは、杉山勝美(原告財団の総務部長であるのみならず、原告中野の娘であり現理事長である中野明子の婚約者でもある。)作成の「現場報告のまとめ」なる文書(<証拠略>)を入手しており、その作成時期、目的は不明(ただし、文面からして上田の理事就任後に作成されたものと認められる。)であるが、同文書には、杉山の私見として、原(ママ)告梅澤及び同(ママ)重を原告財団に残すことは、財団運営上深刻な問題である、この二人は元凶であり、いる限り財団の発展はあり得ないなどの記載がある。

また、被告稲垣は、端が解任された後、同人に依頼して、原告中野や原告武川らとの交渉経過等を記載させた文書(<証拠略>)を入手しているが、同文書には、原告中野が平成七年一〇月末ころから原告財団の運営に関して原告武川らと接触するようになり、平成八年五月ころには、原告武川に原告財団の件を依頼することとして、組合対応についての会議がもたれ、原告武川がこれに当たるとすることなどが協議されたこと、同年一二月ころに開催された会議では、組合問題の解決が遅れているとして原告武川の解任が取り沙汰されたことなどが記載されている。

二  以上認定事実によって、被告梅澤らの行為が、原告中野らに対する不法行為になるか(争点1)について判断する。

1 まず、原告中野らは、右一の4に認定したビラ貼付についても、これらが被告梅澤らによるものであると主張しているところ、確かに、右ビラ貼付が本件処分直後からなされるようになっていること、日研や京都弁護士会館付近でのビラ貼付を除き、被告梅澤の出勤停止期間とも重なること、とりわけ、磐手公民館でのビラ貼付は同所での原告財団の健診業務が予定されていた日であり、また音羽病院でのビラ貼付も原告中野の退院日であったこと、ビラの文面も被告組合らの要求等と共通することなどからすると、右ビラ貼付も、被告梅澤らが共謀するなどして行ったことが強く推測されるところであり、また、右ビラに作成者の記載がないことや、被告梅澤らがビラ貼付に関してのみその関与を否定しているのも、同人らが、ビラ貼付は、ビラ配布等と異なり、器物損壊等の刑法上の犯罪に該当するものであることを承知していることによると考えることができないではない。

しかしながら、証拠上、ビラの作成者、貼付者が組合員か否かすらの特定もできないし、証拠(<証拠略>)によれば、被告梅澤らが原告中野宅に赴いた際、原告中野に手渡すべく、原告武川、松元、杉田を辞めさせるよう要望した書面を持参していたが、右書面には、分会員以外の従業員四名も署名していたことや平成八年末から平成九年一月にかけて、従業員三名が原告財団のあり方を不満として退職していったことなどが認められ、そうすると、これら分会員或いは被告組合員以外の従業員において右ビラ貼付を行った可能性も否定できないところであり、右ビラの貼付された時期やその記載文面から、これが被告梅澤らの共謀であると推認するには足りないというほかない。

2 次に、原告中野らは、平成八年九月一七日のビラ配布についても不法行為であると主張するが、右ビラは、原告武川らが原告財団の運営に関与するようになる以前に被告梅澤が作成したもので、記載内容は組合員と非組合員との賃金格差の不当を訴えるというものに止まり、これを被告組合の組合員が通行人らに配布したとしても、それが直ちに不法行為に該当するというものではない。

3 他方、被告梅澤らは、右以外の前記認定にかかるビラ配布、原告中野宅への打電、訪問等は正当な組合活動の一環であると主張するが、配布されたビラには、前記認定において摘示した各記載が存し、それらの記載が、原告中野、同武川及び同財団の名誉や名誉感情及び信用を著しく毀損する表現であることは疑いのないところであり、被告梅澤らが、組合側の要求を訴えかけるということには不必要なかかる記載を敢えてしていることは、同原告らをことさらに誹謗中傷しようとする積極的な害意によるものであるというほかないし、団交への出席を求めて原告中野の自宅に執拗に打電を繰り返し、さらに、これにも応じないとみるや、遂には、大量のビラ、白衣、スピーカーを用意して大挙して街宣車で押し掛け、スピーカーを使用して面会を要求し、本件の労使紛争には何の関係もない周辺住民にまで前示のビラを配布したことは到底正常な面接のための交渉や訪問などといえるものではなく、私生活の平穏を破る悪質な嫌がらせであり、かつ、不当な面会の強要というべきものであって、これら一連の行為が組合活動の一環としてなされたことを考慮しても、被告梅澤らの害意や行為の悪質さ等に照らし社会的相当性の範囲を逸脱した違法なものというほかない。

また、被告梅澤らは、ビラ配布の一部(平成八年九月一一日及び一九日のビラ配布)は、被告梅澤個人ではなく分会長としての行為であり、また、原告中野宅への打電は被告組合が行ったものであるなどと主張し、これらについて行為者個人の不法行為責任の存在を争っているが、被告梅澤が組合活動の一環としてビラ配布を行ったものであることは争いがなく、加えて、配布したビラが異なるとはいえこれと相前後して被告組合の組合員も被告梅澤が作成したビラを配布したりしている(同月一七日のビラ配布)ことなどからすると、被告梅澤が独断で行ったものとは考え難く、被告稲垣らとの事前の共謀によるものと推認できるし、原告中野宅への打電についても、それらが前記認定のとおり、被告梅澤が原告中野の退院を確認した直後からなされていること、同月二〇日から二七日までに相次いで打電された電文は原告中野の団交への出席を求めるとの文面であったこと、これに続いて同月二八日の原告中野宅への押し掛け等がなされていることなどからして、その具体的な打電者は明らかではないが、被告梅澤と被告稲垣らが共謀のうえ、組合活動の一環として行ったものと推認できる(被告梅澤及び被告稲垣は、いずれも、その本人尋問において、被告稲垣が、被告梅澤から事前に承諾を得ることなく、打電したと供述するが、右供述は到底採用できない)。かかる場合、それが被告組合の活動であるとの点からして、被告組合の不法行為に該当するというべきであるが、他方、そのことによって、現実の行為を行いまたはその共謀に加担した者の個人的な不法行為責任が消滅するとすべき理由はなく、実行行為者及び共謀者も不法行為を行った者として、その責任を負うものというべきである。

以上によれば、被告梅澤らの右一連の行為は、被告梅澤及び同稲垣らの共謀によるものであるとともに、被告組合の行為でもあると認められ、これらの一連の行為によって、原告中野の名誉及び信用が毀損され、また私生活上の平穏が破られたこと、原告武川の名誉及び信用が毀損されたこと、原告財団の名誉及び信用が毀損されたこと(被告梅澤らは、法人である原告財団に人格権は観念できないというが、法人にも社会的な名誉や信用が存することはいうまでもないところであるから、右の主張は採用できない。)が認められるから、同被告らは共同して不法行為を行った者として、連帯して、右各原告らに生じた損害を賠償すべきである。

原告ら各自の損害は無形のものであるから、これを金銭に評価するときは、いずれも各一〇万円とするのが相当である。

よって、不法行為による損害賠償を求める右原告らの請求は右の限度で理由があるが、その余は理由がない。

三  次に、原告武川が請求する差止の必要性について判断する。

原告武川が、ビラの記載内容に関わりなくその配布、貼付の差止を求める点はおよそ理由がない。

原告武川を誹謗中傷するビラの配布、貼付の差止を求める点についてみるに、前記認定のとおり、同原告は平成九年三月、原告財団理事を解任されて、原告財団の運営から退陣し、被告梅澤らがビラ等を配布した目的は原告武川に関する限りではすでに達成されており、現に、被告梅澤らがその後も原告武川らを誹謗するビラを配布していると認めるに足る証拠はない。

そうすると、被告梅澤らが、今後も原告武川を誹謗中傷するビラを配布したりするとは考えられず、予め、その差止を命じる必要性は認められない。

よって、原告武川のビラ配布等の差止を求める請求は、理由がない。

(ロ事件)

一  前記認定事実によって判断する。

本件処分は、被告梅澤らの原告中野宅への打電、押し掛け等に対し、さらに梅澤に対しては処分書の受領拒否をも理由としてなされたものであるところ、右の打電、押し掛け等の行為が、組合活動の一環としてみても社会的相当性を逸脱する違法なものであることは右に説示したとおりである。

しかしながら、他方、原告中野は、被告梅澤らの組合活動が活発になって賃上げ要求等を巡る労使対立が激しさを増してきていた平成七年一〇月ころから原告武川と接触を持つようになって財団運営について相談したりしていること、原告中野は体調不良を理由に平成八年五月九日から出勤しなくなり、これに代わって原告武川が理事長代理として原告財団の運営に関わるようになっているが、そのころ、同人らがもった会合では原告武川が組合対応に当たること等が協議されていること、理事長代理として原告財団の運営を任された原告武川は弁護士であり、本来法人運営の専門家ではないこと、分会からは従業員増員に対する反対や賃金増額の要求がなされている中で、原告武川は理事長代理就任後、直ちに松元や杉田を雇用し、原告財団からはこれら三名に対して高額な報酬等が支払われていること、松元は被告組合ないし分会に関する情報収集や警察との情報交換をしていたことが発覚していること、本件処分時ころさらに四名の従業員が増員されているが、これらはいずれも松元の関係者であったことなどからすると、原告武川らが原告財団の運営に関わるようになった主たる目的が、組合活動の弱体化を意図した組合対策にあったことは明らかというべきである。

そして、被告梅澤は分会長であり、原告重は会計であって、分会の中心的存在であり、杉山は原告武川退陣後、被告梅澤及び原告重を敵視した報告書を残しているが、杉山が総務部長であり、個人的な関係においても原告中野とは密接な関係があったと認められることなどからして、右は一人杉山個人の私見というに止まらず、原告財団の経営者側に共通した認識であったことが窺える。

また、本件処分においては、電報に具体的な打電者の記載はなく、また、原告中野宅へ押し掛けたのが被告梅澤及び原告重のみではなかったに拘わらず、これらについて、事実確認や事情聴取を行うこともなく、処分が発せられており、また被告梅澤に対しては、処分書を受取らないことを理由に、更に処分を重ねるなどしているのであって、その処分経過は、手続的にも疑問があるのみならず、とりわけ被告梅澤に対する重複処分は過剰にすぎる(この点に関して、原告財団は、被告梅澤らの事情聴取が期待できる状況にはなかったなどと主張するが、右のとおり、原告武川が原告財団運営に関与した目的は主として組合対策であったことが認められ、右処分当時には既に松元メモの発覚等によって、分会ないし組合側が、原告財団による組織的な組合潰しの疑念を強めていた時期であるから、対立を激化させた責任は原告財団側にも少なからず存するというべきであり、このような疑惑の根拠を解消しようとしなかった自らの非を棚上げにして被告梅澤らの対応を非難することは不当であって、原告財団の右主張は採用できない)。

以上の諸事情を総合すると、原告財団が本件処分を行った真の意図は、分会の中心的存在である被告梅澤や原告重に打撃を加えることによって、分会の弱体化を図ったものと推認することができるのであって、本件処分は不当労働行為意思に基づく違法な処分というべきであり、不法行為に該当するというべきである。

本件処分によって、被告梅澤は不当に賃金を控除されたほか、被告梅澤及び原告重とも精神的苦痛を被ったことが認められるが、右精神的苦痛を金銭評価するときは、いずれも一〇万円とするのが相当であり、弁護士費用は、被告梅澤について二万円、原告重について一万円を賠償すべき損害であると認める。

よって、被告梅澤が控除された賃金相当額の損害賠償を求める部分は理由があり、同被告及び原告重が精神的苦痛に対する損害賠償及び弁護士費用に相当する損害賠償を求める部分は右の限度で理由があり、その余は理由がない。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 松尾嘉倫 裁判官 森鍵一)

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